第5回 「本気の遊び」

 トモエ幼稚園では、年長組を「青組」と言います。年少組から入園した子、満3歳から、もっと前の弟妹として、あるいはお母さんのおなかの中から…トモエの在籍歴はさまざまだけれど、最年長の青組さんとなると、子どもたちはみんな、動きも活発で表現も豊かになり、その存在感は輝きを増します。

 

 今年度の途中から、トモエ卒園生のユウカさんがスタッフに加わりました。若くてハツラツとしたユウカさんに、子どもたちはみんな大喜び!ユウカさんを取り合う(笑)毎日です。中でも青組の男の子たちによる「ユウカの争奪戦」には目を見張ります。
 そんなある日、中堅男性スタッフのヤマトさんが、子どもたちの本来持つ「遊びたい心」に仕掛けます。

 

ヤマト 「あれ、ここに『ユウカのハート』落ちてるよ、持っていっちゃおうっと!」
(『ユウカのハート』とは、何のことはない、オモチャの水でっぽうの、水を入れるタンク部分。ちょっとぷくっとして、見ようによっては心臓(ハート)にも見える?!後にヤマトさん、このタンクをピンクにコーティングまでして、ったく子どもたちの心をくすぐる技に余念がない!)
子どもたち  「なにっ!!まて~やまと!『ゆうかのはあと』をかえせ~!」

 

 本気で目の色を変えて、どこまでも追いかけてくる子どもたちと、広いトモエの敷地内を縦横無尽に逃げ尽くすヤマトさん。トモエでは、こんな「本気の遊び」が日々繰り広げられています。やがて遊びは進化して、逆バージョンも生まれます。子どもたちは『ユウカのハート』を探し出してユウカに渡し、子どもたちとユウカでどこかに隠して、さあ探してみな~!とヤマトさんを挑発、今度は子どもたちが遊びを仕掛けるのです。

 

子どもたちはやっぱり遊びの達人だなぁと思います。楽しいと想像力がふくらみ、次々と創造する。逃げる→追いかける(おいかけっこ)という普遍的な遊びも、大人のちょっとした機転=スパイスをふりかけるだけで、子どもたちは自ら頭と体をめいっぱい使って本気で遊び、その世界に没頭していく。この「本気の世界」の中で、子どもたちはさまざまなことを学んでいると思います。相手とのかけひき(交渉)、判断、感情の制御、予想、計画…。そして何より、その世界を楽しんでいること(意欲)が、これらの学びの定着のための原動力になっているような気がします。幼児期に、本気の世界の中で、好きな人たちと共に会話をし、コミュニケーションを楽しんでいること。これが後のコミュニケーション能力の基盤となるのだと、『ユウカのハート』ごっこが教えてくれました。