イリンクス~めまい

11月14日(水)子どもたちに大きなプラスチックケースに入ってもらい、それをグルグルと回してみました。ケースから出ると、目が回って歩けなくなることもあります。子どもたちは、この目が回る感覚が好きで何回もやりたがります。ただ、速く回しすぎたり何度もやりすぎると脳への刺激が強すぎるのでほどほどにしなければなりませんし、食後も控えた方がいいですね(笑)。

フランスの社会学者ロジェ・カイヨワは子どもの遊びの要素を、アゴン(競争)、アレア(運)、ミミクリ(模倣)、イリンクス(めまい)の4つに分類しました(『遊びと人間』1958年)。具体的には、アゴン(競争)は取っ組み合い、アレア(運)はじゃんけん、ミミクリ(模倣)はままごと、イリンクス(めまい)はブランコなどです。

動画のようなグルグル回る遊びは、イリンクス(めまい)に分類されるものですが、カイヨワによるとそれは「一時的に知覚の安定を破壊し、明晰であるはずの意識をいわば官能的なパニック状態におとしいれようとするものである。すべての場合において、一種の痙攣、失神状態、あるいは茫然自失に達することが問題なのである。それらは、有無を言わせず乱暴に、現実を消滅させてしまう」というものです。

一般的に大人なら、規律や秩序、協調性などを要求される現実社会にあって、そのストレスを解消するためにお酒を飲んだり趣味に没頭したりして「一時的に知覚の安定を破壊し、明晰であるはずの意識をいわば官能的なパニック状態におとしいれ」、「乱暴に現実を消滅させる」ことができます。大人は、そのような社会的な縛りから一時的に脱することをして精神のバランスをとることができます。

子どもたちは普通、生活の中で自分を縛る(ように感じる)規律や秩序、協調性などを求める圧力から脱する方策を大人のようには持てません。そうした縛りを負担に感じてくると、ぐずったりごねたりするでしょう。時には大声を出したり暴れたり、誰かに当たったりするかもしれません。しかし一般的に、それらは大人たちからは否定されることです。彼らが子どもという立場にいる限り、それは変わりません。彼らとて、そのことは感覚的にとらえていることでしょう。彼らがイリンクス(めまい)を求めるのは、生活のなかで生じる社会的な縛りからの解放(現実の消滅)を得られるからなのかもしれません。ひょっとするとそれは、子どもたちにとっては精神のバランスをとるための自然な欲求なのかもしれません。