第17回 「やりたくないことはやらない?のワケ」

 二学期が始まりました。昨年と比べると、ちょっぴり物足りなかった?くらいな暑さの札幌の夏でしたね。長い休みが明けて、今日もトモエの森に子どもたちの元気な声がこだましています。トモエでは毎月、子どもたちの誕生会が開かれていますが、つい先日も、8月生まれの子どもたちの誕生会がありました。

 

 月末に行われる誕生会は、月のメインイベントです。この日のために、スタッフはていねいに準備を重ね、親たちは誕生者を周知するための誕生版を作ったりして、みんな楽しみにして、その日を迎えます。

 

いつもは、広い敷地と園舎の中を、縦横無尽に羽ばたいている子どもたちが居て、そんな子どもたちを見守りつつも、心地よい居場所にて思い思いに過ごす大人たちが居ます。広々とした空間の中で交わり合うトモエの人々。でも、誕生会の日はちょっと違います。誕生会開始の放送を皮切りに、一同がこぞって広い体育コーナーに大集合します。たくさんの人の手と手で作られた長いトンネルをくぐって、誕生者の子どもたちは誕生会の大舞台へと進んでいきます。みんなが声かけてくれる「おめでとう!」のメッセージに喜びを感じ、あるいはそのメッセージを、これから舞台に立つための勇気に変えて。

 

 そんなふうに、気持ちがひとつになる特別な時空間であるトモエの誕生会。一同に会し、みんなで誕生者の子どもたちの成長を讃え、喜び合います。しかし中には、ずっと座って観ていることが難しい子どももいます。それは例えば、誕生会が始まる前から他にやっていたことがあって、途中で止めたくない!とか、大勢が集まる場所に今は居たくない気分の時とかで、人にはさまざまな事情があるからです。4歳のA君も、今日は然り。誕生会が始まっても、隣接するねんどコーナーでひとり、黙々とねんどを丸めていました。

 

私 「誕生会だよ~行こうよ~」

(気持ちを伝えるために、一度ははっきりと誘います、その後の打診は、その子の性格や普段からの対自分との関係性をかんがみて考えます)

A君 「え~やだ。それより〇〇(私の名前)、ねんどしよう!」(純粋に自分の意思表明!)

 

 ねんど!どれどれ…あら、なかなか上手じゃない!小さい指で器用に丸めてるね~。少しのぞきこんだ後に、ね~誕生会見ない?A君ももうすぐ(誕生会出演)だしさあ、見といたら…。見ない!!ねんどやろうよ~。交渉は難航(笑)。それでも時々、誕生会の盛り上がり場面で歓声が上がるたびに興味が沸くようでチラ見したり、人だかりの後ろに駆け寄ってみたり。でも、おおむね時間はねんど作成に費やされ、丸めたねんど作品は次々と出来上がっていきました。そこはさすがにやりたくて続けただけあって、集中力を発揮していました。なので私も、よし、ここらで写真撮ろう!あとでお母さんに見せるか!と、いつのまにかエキサイトしていました(笑)。そして、誕生会どうする?と二度目の打診をしてみると、ぷれぜんとはしたいんだよねえ~と。(=最後の誕生者へのプレゼントの時には参加したい)

 

さて、プレゼンタイム。トモエでは、プレゼンターは、本人による希望者+プレゼントしたい人集まれ方式なので(気持ちを届けよう!ということです)、A君もちょっとドキドキしながら神妙な面持ちでみんなとプレゼントしていました。まるで最初からずっと観覧していたかのように?(笑)いえいえずっと参加していましたA君も!座って観てはいなかったけれど、ねんどをこねながらも、心は誕生会にあったことが、横で見ていてよく伝わってきました。

 

A君は、「やりたくないことをやらなかった」のではなく、「やりたいことをやった」のだと思います。幼児期に、「何がやりたくて、何をやりたくないのか」ということを素直に表現できることは大切なことだと思います。なぜなら、やりたいことはやって経験し、やりたくないことは、たとえやらなかったとしても、やらなかったその先も経験することができるからです。要するに「自分で決めたいろいろ」があることで、自分で考えるようになるのだと思います。そうやっていずれは、やりたくないこともやらなければならないことを、自然に学んでいくのかもしれません。

 

「やりたくなければやらなくていいよ」は、時に相手に寄り添っていて共感性が高い言葉だと思います。でも反面、相手に丸投げをしているようで、何だか孤独で寂しい感じがする時もあります。だから、その声かけをする時は、相手をひとりにさせないように、横で見ていたいなあと思います。誰かがそばに居てくれたら、その誰か(相手)を鏡にして、自分の思いや意志を映しながら行動することができるのかもしれません。相手が在ってこそ、自分の存在が感じられる。相手が在ってこそ、自分が何者なのかがわかり、自分らしく生きていけるのではないでしょうか。

 

 誕生会で子どもたちは、各々好きなキャラクターになりきります。家族でいっしょに通えるトモエ。いつも大好きなお母さんやお父さんがそばに居てくれることで、子どもたちは安心して何者にでもなれるようです。自分らしい自分に。