第9回 親もいっしょに通うということ

 4月に新しい家族を迎えてスタートして、早いもので3か月が過ぎようとしています。世の中を見わたせば、コロナ禍も少し落ち着きを見せてくれてホッとする今日この頃。以前のような、お互いを自然に近しく感じられるような生活環境が戻ってきているようにも感じます。そして、新年度はやっぱりいいですね。新しい人間関係が生まれたり、子どもたちもひとつ上の学年に上がって、どの子もみんな素敵に成長してくれてまぶしいかぎりです。

 

 トモエ幼稚園では、お母さん、お父さんを始め、多くの大人が通っています。そして時代の流れ(働き方や人生の過ごし方)と共に、参加する大人の顔ぶれも多様化しています。必然的に、子どもたちもいろいろな種類の大人と出会うことになるので、人生の初期に、人間はそれぞれなのだと肌で学べる好機会なのでは、と思えたりもしています。

 

大人が、毎日子どもといっしょに通うということは楽なことばかりではないけれど(筆者の経験者です)、そこは、子どもにまつわる大人たちが工夫し、お互い協力し合いながら日々の生活を組み立てていくという、大人側の学びでもあるのかな、と思います。子どもを真ん中に据えながらも、大人たちも生き生きと過ごせるような生活環境を作っていく。その過程で出会うたくさんの家族と共に、さまざまな経験を積んでいく醍醐味こそが学びそのものです。ともあれ、かけがえのない日々を創造しているトモエ家族の皆さんにあらためてエールを送りたいと思います。

 

 先日、こんな光景を目にしました。青組(年長)の男の子の一対一のぶつかり合い、すごい迫力!と思いきや直後に、片方の男の子がゲラゲラニッコリ笑いかけました。相手の男の子もつられてゲラゲラ。そして少し離れた所に、片方の男の子のお父さんがニコニコしながら「おいおいどうしたかな~」と言いかけてまたニコニコしていました。素直な感情をぶつけ合う子どもたち、それを見守る大人。誰かの介入なくとも自分たちで解決し、大人もそれを信じている。

 

でももちろん、いつでもこうだとはかぎりません。ケースバイケースだと思います。(誰かが声かけした方が、滞った空気が流れる時もある)ひとつ言えるのは、そのバックグラウンドにはトモエでの生活を経て得たさまざまな経験があるということです。子どもも大人も考えたり悩んだり行動してみたりしつつ、その感性が磨かれていきます。まさに一日にしてならず、なのです。やはり「生活の場」として日々通うことで、豊かな感性が育っていくのでしょう。

 

 別の日に見た光景です。女の子3人がトモエの子ども用ドレスの衣装をみんなでまとって、手をつないでかけてきました。女の子ならではのアゲアゲな(笑)盛り上がり様です。その中のひとりの女の子のお母さんが、下の子を抱っこしながらその様子を眺めていました。別の女の子が、「ねえ、これできる?」と次々と、あとのふたりに声かけしてリーダーシップをとりながら遊んでいました。「できるよ!」がんばって後に続く先ほどの女の子と、ふ~んそうなのね~と流す女の子。(いろんなタイプの子がいますからそれで自然です)

 

すると、がんばっていた方の女の子が、サッとその場を去ったかと思いきや、そばで眺めていたお母さんに抱っこされていました。がんばったからちょっぴりお母さんにいやしてほしくなったのかな。弱気になっていた我が子を、よしよし、と何も言わずに抱きしめるお母さん。(その時下の子は、リーダーの女の子が上手にあやしてくれていた)パっと泣き止みパワー充電された女の子。悪かったかな、と思ったのかはわからないけれど、赤ちゃん(下の子)がお母さんの膝を下りることになったから面倒をみたのか、とにかく自然に手を差し伸べたリーダーの女の子。もうひとりの女の子はフフフとその場を見守っているかのようにニコニコ。そして遊びは「下の子を乗り物に乗せてみんなで押す」というように、遊び自体も発展していきました。

 

そこに居た、それにまつわる全員が、必要な動きを瞬時に自然にやってのけた、そんな調和的な光景でした。お母さんがそこにいるからこそ、安心して子どもは自分の気持ちに素直な動きができるし、他の子も、それを全く自然な様子として受け止め、同時に、相手を通してきっといろんな感情を経験できているんだろうなあ、と思いました。

 

 そして最後にひとつ。大人も子どももひとりの人格として捉えようと努めるこの環境の中では、まだ本当に小さな頃から、ひとりの人格としての自分を意識して、それを積極的に行使しようとする子どももいます。「トモエにひとりで行く!今日はお母さんついてこないで!」と言い切る女の子。(こういう自立的な感覚が研ぎ澄まされている時は、お母さんを「付属」っぽく捉えるところに、より子どもの本気が伝わってきます)トモエでも、「トモエではお母さん離れていてね、来てほしい時だけ来てね」と、一見おうへいな(笑)主張をしてみたり。

 

 お母さんに聞けば、家ではとっても仲良し母子で、手をつないでいるとのことです。そしてトモエに向かう時には、つないだその手をみずからふり切るということ。外の世界でがんばるパワーを、お母さんから存分に受け取ってからいざ出陣!お母さんから、ひとりでがんばりなさいと言われたわけでも全くないのに、子どもは自分でそう考えて行動に出たのです。そんな一部始終をお母さんはよくわかっているので、子どものトモエでの破天荒な(笑)要求も、静かに見守っているのです。お母さんとは、全くもって偉大な存在です。

 

 親もいっしょに通う幼稚園は、人間の素敵さを日々発見できる、本当にワクワクするところなのです。